地域・学校の連携で創るセーフティネット

 

 

 

 この度、解放出版社の方からコラム寄稿のお話をいただき、地域で行っている学習支援活動について寄稿させていただきました。

 

 大切にしたいのは、根っこを大切にして広げていくこと(社会的包摂)。

 

 機会をいただいたことに感謝です。

 

◆地域・学校の連携で創るセーフティネット◆

〈『部落解放』2016年8月号掲載〉

 

岡本工介

 

 二〇代前半、自らの育った被差別部落から飛び立ち、アメリカ先住民居留区、黒人公民権運動の地など十数年にわたってさまざまな場を放浪し、学んだことは数多くあった。


 「マイノリティには社会の縮図としてさまざまな課題がいち早く、深刻に、継続して起こる」ということが共通して見えたことだった。


 そして、大阪府高槻市から啓発業務を企画運営する前職を経て、独立。ふるさとに根づいて活動を始めるときに描いたのは、いち早く起こる課題に着手すること。それが社会全体の課題となったとき、解決の一助となれるという発想だった。


 次のビジョンとして描いたのは、ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)を地域に創造すること。具体的にはさまざまな背景をもつ人たちを支えるセーフティネットの仕組みを創ることだった。


 その一つの例を挙げようと思う。地域では、中学校区を対象に学習支援「わんぴーす」という活動を行っている。この活動は次の三つの柱からなる。①生活困窮世帯や家庭困難層の中学生を対象に、学習支援を行うことで低学力の克服と地域における「貧困の連鎖」を防止する。②学習支援教室を毎週二回通年開催することで、学力面のつまずきや課題の克服、生活規律の向上と学習習慣の確立を推進する。③進学意欲の向上と進路相談について親支援もあわせて行う。「わんぴーす」は、小・中学校や教育相談を行う富田青少年交流センターと連携し、一般社団法人タウンスペースWAKWAKが実施主体となった事業である。参加する中学生は、学校の一斉授業の勉強についていけない子、支援学級に入級している子、ひとり親家庭や虐待のケースにいたる子と多様で、被差別部落のみならずさまざまな背景を持つ子どもである。地域の学校に長年携わられ、退職されたベテランの先生方や、大学生が講師としてかかわっている。また、支援を充実するため、保護者の方に個人情報共有の理解を得て、関係機関と定期的に連携を行っている。


 日々がドラマの連続ではあるけれど、ある日、印象的なことがあった。
 「わんぴーす」の卒業生で晴れて公立高校に入学した子から、N先生に「父親が授業料を払わないと言ってるから学校を退学しなあかん」と泣きながら電話が入った。その情報はすぐに富田青少年交流センターに入り、夕方の「わんぴーす」の時間には中学校の先生方が駆けつけた。学習支援の場は相談の場へと変わり、夜にはその子が通う高校にも話をしに行かれた。次の日には話を聞きつけた小学校の先生が、家庭へフォローに向かい……そんなケースだった。そこで感じたのは、地域が長年培ってきたベースに立った連携のありがたさである。そして「この子をなんとかしたい!」という思いでそれぞれが動いた結果生まれたのが「この地域ならではのセーフティネット」だった。


 この地域は被差別部落であるがゆえに、被差別の歴史とさまざまな課題(影の部分)がある。一方で課題が多いからこそ、果敢にチャレンジを行ってきたなかで地域連携のベースが生まれ、人と人とのつながり(光の物語)があり、それはまちづくりの大きな財産となっている。その長年の重みを十分に教えてくれる出来事だった。

(おかもと・こうすけ/平安女学院大学キャンパスソーシャルワーカー・社会福祉士)